夏の幻


所謂、霊感という奴なのかもしれない。
そう思い始めたのはここ数年で、
「……。」
東京に引っ越した友人に会いに来た帰り道、公園で話し合う男女を見た。
が、
「……。」
なんというか、多分、この自分の感覚を信じる限り男の方は人間じゃない。
じっとみたら失礼になるよなぁと思っても、
気になってゆっくりと横目で見ながらそこを通り過ぎる。
多分、人間じゃない気がする。
てくてくと、駅の方へ向かって歩きながらそう思う。

小さいころから、
「今ね、あのおねーちゃんと遊んでたんだ」
「って、どこのおねーちゃん?誰も居ないじゃない」
なんていう会話を繰り広げていたりもした。
自分にとってはそれが普通だからあまり気にしなかったけれども、
もしかしたら霊感という奴なのかもしれない。
ただ、全部が全部見えるわけじゃなくて、
誰かと接している幽霊しか見えない。
気になって少し調べてみたところによると、
幽霊っていうのは認知されるとその存在感を多少増すらしい。
だから、ものすごい霊感とかがあるわけじゃなくて、
普通の人よりもちょっと強いぐらいなんだろうなぁ、と思う。

そんな取り留めの無いことを考える。
あの女の人は、やっぱり彼が見えたんだろう。
何の話をしていたんだろうか?
陰陽師みたいなもの?
自分の能力を活かせるというのは、とてもかっこいいことだと最近思う。
自分には何が出来るだろうか?
少なくとも、この能力なんていかせない。
だからって何が出来るだろうか?
サッカーだってちょっと高校の部活レベルで上の方にいるぐらいで、
それで喰っていこうなんて思えない。
そんな度胸は自分には無い。
何をしたらいいんだろうか。

「っと」
「あ、すみません」
そんなことを思いながら歩いていたから、注意力が散漫になっていた。
前から来た人にぶつかりそうになった。
「大丈夫大丈夫。
真剣な顔をして、悩み事か、少年」
その男の人は軽いノリでそう言った。
「はぁ、まぁ」
「悩め悩め、若いっていうのはいいことだなぁ」
その人はははははと笑う。
若いって言ったって、この人だって多分まだ20代。
十分に若いんじゃないだろうか、と思う。
もしくは、青い。
それが顔に出たのだろうか。
その人はにやりと笑った。
「少年、俺が君ぐらいの年だったときはな、日本は戦争で貧困に喘いでたんだぞ。
こんな平和の世の中で、悩めるっていうことは贅沢なんだ」
そういってもう一度笑うと、そのまま歩いていった。
……戦争って、明らかにあの人は20代。
いっていても、30代前半。
何を言っているのだろうか?
今日は変な人に会うなぁ、と思う。

ブルルル
ポケットのケータイが振るえる。
着信:甲斐上総。
「はい」
『はぁい、三浦殿〜?』
「甲斐さん、どうしました?」
『春ちゃんがね、新しいケーキ作ったからどうかって。
今どこにいるの〜?』
「あー、今、東京なんですけど。自由が丘」
『はぁ?なんでそんなおしゃれなところにいるの。
マジずるいんだけど』
甲斐さんの声の更に向こうで、
『おしゃれなとこってどこー?』という長門さんの声も聞こえる。
『自由が丘だって。
えー、じゃぁ、すぐには来れない?』
「そうですね。すみません」
『むぅ、まぁ自由が丘だもんね、優雅だもんね』
「中学の友人に会いに来ただけですよ。
他に何を見たわけでもない」
『でも、雑貨屋さん見たいー、
よし、今度案内してよ』
「え、甲斐さん?僕だってそんな詳しいわけじゃ」
『まぁまぁ、そういわずに。
とりあえずさ、ケーキとって置くから来れたらおいでよ。ね、
じゃぁね』
そういって電話は一方的に切れた。
そんな無茶苦茶な、と思いながらも、
その電話に誘われるかのように、自分の足は自然に速くなっていた。


暑い日は思考には向かない。
可能ならば早く向こうにもどって、
あの居心地のいい喫茶店で珈琲とケーキを楽しもう。
そう思うと、自然に口元がほころんだ。

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