同類相憐れむ


その日も彼、神野京介は
目的もなくふらふらと街を歩き回っていた。
彼のこういう計画性のなさを、昔なじみで同族の神山隆二は責めるが、
彼だって似たようなものだと思っている。
むしろ、彼の方が計画性がないだろう。
特に、アレは驚いた。
今から、結構前の話になるかもしれないが、
一人の人間の女に惚れて、そのままずるずると一緒に住んでいたのだから。
計画性がないというか、自分がなんなのかわかっていない。
結局、彼女も自分をも傷つけることになったのだ、馬鹿としかいいようがない。
けれども、京介は隆二のそういうところが嫌いではなかった。
馬鹿だなぁと思うし、面倒に巻き込まれたらそれなりに文句は言うが、
それでもそういうところがあるからこそ神山隆二なんだよな、と思っていた。
そして、同族の四人のなかでは一番、隆二が人間らしさを残しているだろうとも。
そういえば、彼らの敵でもあり味方でもある、
研究所のお嬢ちゃんことエミリに聞いたところによれば、
最近隆二はまた同居人を得たらしい。
もしも、幽霊でも同居人というならば、だが。
研究所から逃げ出した幽霊を拾って、世話しているという。
聞いた瞬間、まったくあいつらしいと笑ったものだ。
しかも、結構可愛い女の子らしい。
ふらふらと歩きながらそんなことを考えて、
いっそ隆二とその幽霊に会いに行くのもいいかもしれないと思った。
今はどこに住んでいるんだっけ?
千葉とか行っていたような……。
一度、エミリにあって住所を聞くことにしよう。

考え事をすると少しばかり注意力が散漫になる。
「っと」
「あ、すみません」
前から来た少年にぶつかりそうになって、慌てて立ち止まる。
何かを真剣に考えているような表情の少年は、
顔を上げると慌てて謝ってきた。
「大丈夫大丈夫。
真剣な顔をして、悩み事か、少年」
「はぁ、まぁ」
「悩め悩め、若いっていうのはいいことだなぁ」
そういってははははと笑う。
なんだか、とても気分が良かった。
真面目そうな少年だったからかもしれない。
自分が軽い人間だと自覚している分、真面目な人間には好意を抱く。
「少年、俺が君ぐらいの年だったときはな、日本は戦争で貧困に喘いでたんだぞ。
こんな平和の世の中で、悩めるっていうことは贅沢なんだ」
そういって、もう一度笑うと歩きだす。
歩き出してから、戦争だとか言ってあの少年は
今ごろ悩んでいるかもしれないなぁと思い、もう一度笑った。


その人にあったのは、それから少し後のこと。
つまらなさそうな顔をして歩く、その人を見つけたとき、目を疑った。
「……」
自分の同類は3人だけだが、この人も自分達と同じようなものだと悟った。
人ではない、何か。
でも、人にまぎれて生きている。
お互い大変だ。
そう思って、苦笑する。
相手はじっと自分を見る京介に僅かに怪訝そうな顔をした。
同類を感知する能力は無いのかもしれない。
その人物の行く末に僅かでも幸福があることを祈って、
彼は少し嗤った。

それからまた、ふらふらと歩き出した。
今度は、自分の同族に会うために。
「マオちゃんって言ったっけ?
どんな子なんだろうなぁ」
口の中で小さく呟いた。

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