「猫、可愛かったんです」
そう言って笑う後輩を、好ましく思う。
年に数回しか着ない、制服の裾をひらひらと躍らせながら後輩は歩く。
自分はというと、滅多に着ないスカートなんて着ているものだから違和感を感じてしょうがない。
「委員長は猫、好きですか?」
そう聞かれて、少し悩む。
知り合いの探偵同好会の彼ならば間違いなく「三毛猫ホームズならば!」と答えるところだろう。
それとも、あれをミステリとは認めないかもしれない。
「それとも、犬派?」
更に質問を付け足される。
「どうかしら?
……小鳥は、好きね」
質問とはずれた答えを返しても、後輩は特に気にした様子を見せずに、
「小鳥。小鳥も可愛いですねー」
なんて言っている。
そんなことを言っていたら、目的地はもう目の前で、
知らず知らずのうちに、設楽桜子はぴんっと背筋を伸ばしていた。
裁判の傍聴に行く。
桜子はそれが好きだった。
いつか自分もあの場所に立つのだと、ずっと心に決めていた。
そして今日は(時には学校をさぼってまで)ずっと追いかけていた事件の判決日なのだ。
少し、気合が入る。
他愛も無い、と言ってしまったら被害者に失礼だが、何処にでもある窃盗事件。
前科二犯。
執行猶予中の出来事。
この事件を傍聴しようと思ったのは、
新聞記者である父親が「立ち直る犯罪者」と言ったような内容でコラムをかいていたときに、
この被告からもインタビューをとったからだ。
「ええ、反省しています。被害者には本当に悪いことを」
反省なんてしていなかった。
そのインタビューの三日後に、今回の事件を起こした。
「見破れなかった」と父親がひそかにしょげていたのを彼女は知っている。
女子高校生らしく、ある程度は父親のことを煙たく思っている。
それでも、仕事に誇りを持っている父親を尊敬している。
だからこそ、許せなかった。
そしてもうひとつ、
ぴんっと背筋を伸ばして座っている、女検事を見る。
あの女検事に惚れたからだ。
あれこそ、設楽桜子が望んでいる女性像だった。
だから、彼女は、初公判から今日までずっと、この事件を追いかけていた。
「実際の法廷を勉強することも大切です」
検事委員会の後輩にはそう言ってある。
もっとも、その後輩 古田朝陽は先ほどから眠そうな顔をしているが。
女検事の横顔を見る。
いつか並んでやる、と強く思った。 |