変な来客


「暇だねぇ」
「暇ですね。
でも、お盆は毎年こんなものですよ?」
「そうなんだ?」
「そうなんですよ。
特に夜は売上が4千円台とかで、明らかに人件費の方がかかりますしね」
「……そうなんだ」
「……。
前の店長が言ってましたけど、売上減ると減給なんですよね?」
「そうなんだよ……。
こっちにきてそうそう減給なのかなぁ、俺」
「……店長。
げ、元気だしてください、ね?」
「うん……」
「しばらくしたら、また売上戻りますから」
「ありがとう、新條さん」

――。
「いらっしゃいませ。
お決まりでしたらお伺いいたします」
「えっと、じゃぁアイスコーヒー」
「アイスコーヒー280円です。
1000円お預かり致します。
720円のお返しになります」
「アイスコーヒー失礼致します。
ごゆっくりどうぞ」
「……」
「……」
「暇だねぇ」
「暇ですねぇ」
「ぶっちゃけ二人もいらないよね」
「そうですね」
「……そういえば、この間変な客が来たんだけど」
「ここの常連客は8割方変ですけど?」
「……新條さん、仮にも皆お客様なんだから。
確かにその通りだけど」
「すみません。それで?」
「ああ、そうそう、その変な客。
20代前半ぐらいだったんだけど、聞いてきたんだ。
“豆は何を使っていますか?”って」
「……。」
「……。」
「……なんて答えたんですか?」
「業務用の……なんですけど、って」
「無難な解答ですね」
「そしたら、じゃぁいいですって帰っちゃった」
「……それは確かに変な客かも」
「でしょ?」
「あ、そろそろアメリカン落とさないと……。
そういえば、豆、また変わりましたね」
「そうなんだよねぇ。
まぁ、こっちは上に従ってるだけだし」
「正直、違いもわかりませんしね」
「そういうこと」


――。
「いらっしゃいませ」
「……すみません、紅茶って一体何の茶葉を……」
「え?あの、このティーバックなんですけど?」
「そうですか……じゃぁ、
マンゴージュースをお願いします」
「お会計300円になります。
丁度お預かりいたします」
「マンゴージュース、こちらから失礼致します」
「ごゆっくりどうぞ」
「……。」
「……。」
「変な客、紅茶バージョンですね」
「そうだね」
「事実この紅茶っておいしいとは言いがたいですよね」
「いや、俺にはわからないけど」
「やっぱり、安いから」
「そっか」
「……。」
「……。」
「暇ですねぇ」
「暇だねぇ」

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