真夏のコンビニ族


『ねぇねぇねぇねぇねぇ、隆二ー』
うっせぇよ。
耳元でわいわい騒ぐマオに対してそう思いながらも、
表面上は冷静に、
「お会計、134円になります」
客に対してそう告げた。

光熱費やら家賃やら、多少なりともお金は必要なわけで、
情けないことに不死者である俺もバイトを強いられている。
今はコンビニで。

「1000円お預かり致します」
『隆二〜。つまんないー』
自分の目の前をうろちょろしていたり、
客に対してちょっかいをだしていたりしたころはまだ良かったが、
背中にへばりつきながらつまらないと訴えられるこの状況に耐えられるほど、
俺は人間ができていなかった。
人間じゃないし。
さりげない動作でマオの腕を掴むと、
レジキーを叩くふりをして自分の近くへ引き寄せ、
つり銭を返しながらその腕を押して
「ありがとうございました」
外へ追い出した。
無論、すぐに帰ってきたけれども。
『隆二隆二隆二』
ああ、五月蝿い。
家においてくればよかったなぁと思っていると、
『大変大変大変!』
マオが目の前をくるくる回りながら外を指差した。
『なんか外がてんやわんやの大騒ぎ』
どんなだ。
そう思いながらも外へ視線をやる。
ああ、確かに。
先ほどから店先に座っている女子高生がいるなぁと思いつつも、
面倒なので放置していたら
先ほどペットボトルを買っていた女性と、
どっから沸いて出たのか……、
座っている女子高生たちと同じぐらいの年齢の少女が言い争っている。
面倒だなぁ。まったく。
『どうするの?』
マオの問いに肩をすくめて返し、
「あー、すみませんお客様」
ドアを開けて顔をだすと、座っている女子高生にそういった。
「すっごい迷惑なんでやるならよそでやってもらえます?」
一同を見回してつけくわえる。
「暑いし。
なんだったら営業妨害で警察呼びますよ」
そんな面倒なことしないけど。
どうせ、そうまで言われて居座る奴はいない。
女子高生たちも顔をしかめると、ふんっと鼻をならし立ち去った。
にしてもすっげぇメイクだなぁ。
気持ち悪いなぁ。
しかも、ごみ残したままだし。
先ほどの女性がそれを拾おうとするので、
「あー、いいですよ、お客様」
慌てて静止した。
思わずため息がでた。
「あとはやりますんで」
それでも女性は手をだしかけて、携帯電話が鳴った。
慌てて彼女は出て、こちらに一礼すると立ち去る。
「……何か?」
ごみを拾っていると言い争っていた少女がこちらをみていた。
彼女の連れであろう。
他にも少女が一人と少年が一人。
「ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
少女がぺこりと頭を下げる。
「いや、仕事だし」
外に置いてあるごみ箱にごみを放り込む。
「……これは仕事ではなくて、年上としての忠告。
あまり厄介ごとに首をつっこまない方がいい。
そんなことしなくても、厄介ごとは望んでいないときにむこうからやってくる」
「でも、あんなのと同じだと思われるのは嫌だから」
珍しく気を利かせてそういってやると、少女はそう答えてきた。
「同じ?」
「大人は、最近の若い者はって一まとめにするから、そういうの嫌だし」
「ああ、なるほど」
それはわからなくもない。
「だが、あそこで喧嘩を売っても結果は変わらない。
くだらない大人の言うことを一々気にするなんて時間の無駄だ」
少女はまだ何かをいいたそうにしていたが、連れの少女が
「魔女さん」
一言、彼女の渾名だと思われるものを呼ぶと黙って頷いた。
「とにかく、すみませんでした」
少女がもう一度頭をさげる。
そしてそのまま歩き出した。
「ちょっと、魔女さん」
連れの少女も慌ててこちらに頭を下げると小走りで彼女を追いかける。
残された連れの少年は俺の目をみて、
「ありがとうございました」
そう言った。
ただ、その後に視線を少し目から外して、
「お二人とも」
そう付け加え、二人を追いかけるために走っていった。

『見えていたのかしら?』
その後姿を見送りながら、マオが呟いた。
「さぁな」
同じようにその後姿を見送りつつ、俺は答えた。

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