図書館ではお勉強を


本を読むことは嫌いではない。
コレでも、親や教師や世間の前ではお嬢様で通っているのだから、
本を読むことぐらい軽くこなさなくちゃ。
そうでなくても、純粋に好き。
前は童話、それもファンタジーが好きだったけれども、
今はやっぱり足が自然に医学系の棚に行く。
両親に聞けばいいのだけれども、
うちの両親は忙しそうにしているから
なるべく無駄なことは聞かないようにしてる。
触らぬヒステリックな中年の男女に祟りなし。
一日中あの人たちの顔を見ているのかと思うと、
うんざりしてあたしは今日も図書館へ逃げ込んだ。
うちの親はあたしが図書館で勉強していると知ればいい顔をする。
「うちの静は夏休みでも毎日ちゃんと勉強して」
そんなくだらないこと、言いふらすなんて低レベル。
自分達を偉いと思い込んでいる、あの医者夫婦。
あの病院だっておじいちゃまから受け継いだだけじゃない。
病院だけじゃない、患者だって。
それでも、おじいちゃまと違ってあの医者夫婦は高慢ちきで
患者は段々離れていっているけれども。
待合室でおばあさまやおじいさまが文句を言っているのを知っている。
そして、その文句に対してあの医者が文句を言っているのも知っている。
「汚い老人が」だなんて、医者がいう言葉??
お願いだから、あたしが継ぐまで潰さないで欲しい。
別に大学病院とかで雇われ医師になってもいいけれども、
おじいちゃまの病院を潰すなんて信じられない!
おじいちゃまが可哀想。
最期まであいつらに邪見に扱われて。
おじいちゃまはまだまだ働けたのに、あいつらが勝手に引退に追い込んで。
叔父様がまだ家にいたらいいのに。
おじいちゃまはずっと、叔父様に病院を継いで欲しがっていたのに。
その叔父様をあいつらは家から追い払った。
あたしは叔父様が居るということは知っていても、
あったことなんてない。
写真だってみたことがない。
あたしが小さいころに家から追い出されたって。
全部、病院を独り占めしたいから。
もっとも、聞いた話ではあいつらはおじいちゃまの遺言状を隠して、
それが法律違反にあたったらしいけど。
叔父様は裁判まで起こす気とかはなくて、示談で話がついたって。
でも、母は言っていた。
「どこまでも意地汚い。お金をせびるなんて」
なんて、意地汚いのかしら。
どちらが意地汚いのかしら。
意地汚さって遺伝するのかしら?
そんなことを考えついてあたしは顔をしかめた。
ありえないけれども、嫌になってしまう。

ため息をつき、視線を本棚に這わせる。
何か面白そうなのないかしら?
この気分を紛らわせるぐらい、のめりこめるもの
ふと、一番上の棚にある背表紙に何もかかれていない
いかにも古そうな本が気になった。
医学とか法律とか、
そういうものはどんどん新しくなっていくけれども、
温故知新。古いものから教わることもある。
おじいちゃまの受け売りだけど。
そう思ってそれをとろうとしたけれども、あたしの身長じゃ取れなくて。
何度かはねるようにしてそれに手を伸ばしていると、
「これですか?」
同い年ぐらいの男の子がそれをとって渡してくれた。
「あ、ありがとうございます」
「いいえ」
彼は笑ってその場を去っていく。
二人の女の子と一緒だった。
ふむ、なかなかかっこいい子だが、二股は関心しないなぁ。


適当にいくつかの本を見繕って、空いている席を探す。
夏休みは混んでいる。
やっと一つ空いている席を見つけた。
「ここ、いいですか?」
正面に座っている男の子、こちらも同い年ぐらいに声をかける。
尋ねられたことに驚いたのか、彼は目を見開いてあたしをみて、
それからふっとわらった。
「どうぞ」
それだけいうと、彼はまたノートと本に戻る。
図書館で他の勉強することは関心しないなぁ、と思ったけれども、
彼が見ているのは医学系の本だった。
ちらちらと視線をノートにうつすと、本の内容をノートに要約している。
ひょっとして、受験対策、小論文対策とかそういうのかしら?
医学系をみているということは、きっと医学部狙い。
親近感が持ててあたしはふふっと笑った。
彼が顔をあげて首を傾げた。
あたしは慌てて下を向いて本を読むふりをした。

だってあたしはこれでも、外ではお嬢様で通っているんだから。

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