おお、なんと!
わたしは心の中で歓声をあげた。
いつも通っている道で、いつも見慣れたビルをたまたま見上げたのは、
何か予感があったからかもしれぬ。
2階に入っているのは、将棋クラブじゃないか!
なんだかやけに寂れたビルだが、そこがまた情緒があってよい。
1階の暇そうな花屋の隣の階段に足をかける。
ぎしぎし、
なんだか気味の悪い音を立てる階段。
しかし、この階段にもおんぼろビルにもなんら罪は無い。
だから、彼らは悪くない。
もし、悪かったとしても、
将棋クラブがはいっているなんて情状酌慮の余地がある。
そう思いながら扉を開けて、わたしは愕然とした。
店内にいた暇そうな店主と思しき女性と
客らしき男性一人の視線がわたしに集まった。
……なんと!
客が一人しかいないとは!
前言を撤回しよう。
なんと罪深き店なんだ。
極刑か!
「坊主、客か?」
男性がそう尋ねてきた
「はい」
「やっと客が来たか!」
男性はばしっと、膝を叩いた。
「珍しいな、高校生か?」
「ええ」
「そうか、じゃぁお相手願おうか」
「是非」
わたしは頷き、財布から800円出すとカウンターにおき、
男性の前に座った。
いざ、一勝負! |