非番の日。
妻とは3年程前に死別したし、
一人娘は成人して会社の近くで一人暮らしをしている。
よって、非番とはいえ日常ためていた家事をするぐらしかない、
わたしは一人町をうろうろしていた。
わざわざ都内まで足を伸ばしたのに、特にすることもない。
そこで、たまたま見つけた将棋クラブにふらりと足を踏み入れた。
そう、暇だったからだ。
将棋は仕事が生きがいのわたしにとって唯一の趣味といえる。
しかし、この将棋クラブで暇を潰せたかといわれたら、
まったく潰せないわけで、
わたしの他に客が一人も居ないこの店で、
店主と二人で他愛も無いおしゃべりをするぐらいしかすることがない。
正直、わたしは将棋がしたかったわけで、
店主としゃべりたかったわけではない。
そもそもわたしは無口な方だし、職業を聞かれて「鑑識だ」と答えても
なんら話は発展しないし、下手するとひかれるのだ。
よって会話は弾まない。
こんなことならば、探偵のところに行けばよかったかもしれない。
何かと事件に巻き込まれたり、首を突っ込んできたりする探偵、
名前は渋谷慎吾。
あいつとは将棋仲間なのだ。
そんなことを思っていると、ぎぎぃと音を立てて扉が開く。
高校生ぐらいの男子がきょとんとした顔でこちらをみていた。
ああ、そりゃこの閑古鳥の鳴き具合をみたらな。
「坊主、客か?」
そう尋ねてみると、坊主は近頃の若者にしては珍しく、
「はい」
といい返事をした。
「やっと客が来たか!」
ばしっと、膝を叩いてみせる。
これで退屈とはおさらばだ。
「珍しいな、高校生か?」
「ええ」
「そうか、じゃぁお相手願おうか」
「是非」
坊主は店主に使用料を支払うと、わたしの前に座った。
この若者がどれぐらいの腕前かしらないが、
年長者の意地にかけて負けるわけには行かない。
さぁ、一勝負! |